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姜尚中 『愛国の作法』を読む  書評  <忠誠も存せざる者は終に逆意これなく候> [Book_review]

                                                               

はじめに
第一章 なぜいま「愛国」なのか
1 なぜいま「愛国」なのか
2 「愛する」とはどんなことか
第二章 国家とは何か
1 国家と権力
2 国家と国民
3 国家と憲法
4 国家と国家
第三章 日本という「国格」
1 「自然」と「作為」
2 「国体」の近代
3 戦後の「この国のかたち」
4 「不満足の愛国心」
第四章 愛国の作法
1 何が問題か
2 「愛郷」と「愛国」
3 「国民の<善性>」と「愛国」
4 「愛国」の努力
むすびにかえて

目次をずらずら、と書き写してみて、かなりむなしい気がする。それほどこの本はかったるかった。
(国家論は主題ではない。愛国心に関する議論は第一章と第四章だけで足りる)。

愛国に相当する英語はPatriotismである。
Oxford ConciseにはPatriot(愛国者)しか項目を立てていない。
Patriot: A person who vigorously supports their country and is prepared to defend it

Oxford Concise Dictionary of PoliticsにはPatriotismとして次の定義を揚げている(最初の数行):
Patriotism has always been defined as love of one's country or zeal in the defence of the interests of one's country.

愛するという行為は心的な行為、意識的な行為であって、上記Dictionary of Politicsにあるように、所属する国の利益を守るためにその国を守る情熱である。姜尚中はp37で(第一章2)で、エーリッヒフロムを引用しながら、愛国心の 愛する、は技術である、と言っている。しかし、この定義は静的にすぎる。ここでいう「愛する」の、主語はひとりの国民である。では、愛されるのは何か? この目的語を「国」とみなすから、議論が静的になり、膠着するのである。国とはなにか?土地や建物というハードウェアだけ、を指すのではない。ハードウェア上で機能している諸々の活動であり、とくに、中央や地方政府が、国民の支持する一定の活動方針に従って、提供する行政サービスのことをいうのである。ここで重要なのは、活動方針や、活動の環境は時間と共に変化するとういことだ(もちろん、国際政治においては国際環境の変化もこの中に含まれる)。すなわち、国を愛すること、とは、実際には 時々刻々変動する活動方針、綱領、プログラムを自らの意志で判断し、選択し、支持する/反対する、一連の行為のことをいうのである。たとえば、戦争を支持/反対、憲法改定を支持/反対、公人の活動方針を支持/反対、など。とうぜん、支持/反対に基づいて行われる行政活動は 国民がその活動を委ねた専門家(公務員、政治家)により担われることになり、この活動の監視も、国民の活動(支持/反対)の一部となる。国を愛するとは、支持/反対を含む政治(文化)活動の総体が、国民の厚生を維持増大しているかどうかを国民が判断して活動をコントロールすることを<熱心に>おこなう心的エネルギ(関心、awareness)を保持することを言うのである。

以上は私の愛国心の理解、解釈である(姜尚中の議論とは関係ない)。

姜尚中の議論には上記の 変動する政治環境における個人の継続的な意志決定過程、という時間的な要素がスッポリ欠けているのである。ある個人をとった場合、生まれて死ぬまでの、個人vs国家の関わり方(参加、選択、観察、意志決定- 同意/拒否、監視など)の行為全体に、<愛国心>はどう位置づけられるか、が問題なのである。姜尚中の議論はこの動的過程が欠け静的になっている。

丸山真男、石橋湛山、ベネディクト・アンダーソン(『幻想の共同体』、『比較の亡霊』)、橋川文三。。らの言葉を引用してるが訴えるところがない。ただ、キーワードとなるのは、丸山真男の 「忠誠と反逆」であろう(論文名であると同時に書名『忠誠と反逆』筑摩書房)。

忠誠と反逆、とはどういうことか。国に忠なるゆえに(仕える君主に)反逆する、ということだ。現在の民主主義的福祉国家でいえば、主権者たる個人と国民の厚生理念に背く政府に反逆する、という行為は 愛国の一種(しかも、重要な)なのである、ということだ。<忠誠も存せざる者は終に逆意これなく候>

注: 但し、封建時代じゃない現代では、主権者=国民に公務員(天皇、国会議員、裁判官)が仕えている。さらに、国とは国民のことである。国民が国民を愛せよ、と 国民に仕える立場にある公務員が国民に説教を垂れようとしている現在のニッポンの状況は、滑稽千万というしかない。

イラク戦争開戦前に、イラク大量破壊兵器国連査察団の一員であった海兵隊上がりのスコット・リッターを覚えておいでだろう。姜尚中も同席した会合において彼は聴衆の前で、開口一番、次のように宣言したという:

「わたしはこの戦争に反対する。なぜなら、わたしはパトリオットだからだ。わたしはアメリカを愛する。アメリカの憲法を愛する。だからこの戦争に反対する」。

姜尚中は「この若きアメリカ人のなかに、。。「忠誠」と「反逆」の弁証法的な緊張が見事に生きていると思いました」と書いているp187。

リッターの宣言こそ、愛国心とはなにか、を象徴的に表している発言である。

あるいは、姜尚中によると、。。明治の歴史家、竹越与三郎『人民読本』を引用してるp184。国家の目的は、個人の生存と進歩を抜きにしてはありえない、国家が誤りを犯すならば、これを糺し、「矯正」することこそ「愛国心」である、と竹越は言っている。

なお、安倍晋三『美しい国へ』、藤原『国家の品格』など、が頻繁に引用され批判されている。

わたくしの結論:
愛国心、など 公僕たる議員、政府や公務員、官僚が、主権者たる国民に要求したりしつけりするモノではない。 <頭(ズ)が高い!>のである。 ある時払いの催促無し、なんよ、愛国心なぞ。

追記:
愛国心とは、nationalismであるとか、patriotismであるとかいうが、機能的には、
          awareness, involvement
関わり、関心、関与、であるとおもう。継続的な関与過程において、愛憎の感情がともなう。感情 mind(忠誠、反逆、愛情憎悪)は本質ではない。 継続的機能(関与)が本質である。

スコットリッター、リンク:
http://no-yuji.cside.com/iraq/RitterLink.htm
丸山真男『忠誠と反逆』:
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0564.html


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コメント 3

おたかさん

姜尚中氏は女性に人気があるという。独特の柔らかな語り口がその理由かもしれない。
私も彼が好きである。人間的な優しさを持っていると感じる事が出来るからだ。

この本は読んでいないが、彼の欠点は、情緒的になるあまり、論理的になり切れないところがあるところだと思う。彼の主張は少々イライラするところがある。
しかしそこが好きな点なのかもしれない。

拉致問題でも、過去の歴史を忘れ去ってしまっているこの国の人々に、あるいは政府に
「それでは日本人は今まで何をしてきたのか、その反省はあるのか」
「拉致問題を政治的に利用しているだけではないのか」
と追求すればいいが、彼は絶対にそういう発言はしない。
by おたかさん (2006-11-23 03:08) 

古井戸

学者であって、思想家でない、のですね。
博引旁証(Aはこう言っている、Bはこう述べている。。)は結構だが、それで、あなた(姜尚中)はどう思ってるの?あなたが自分自身で正しい、と思っていることだけを、箇条書きにしてくれ!といいたくなります。

「愛国の作法」というのは一種の逃げ、問題回避です。愛国とは何か、と、問題そのものに回答すべきです。他の思想家(国内、国外)はこう述べている、というハナシと、俺はこう思うというハナシは章を分けて提示して欲しいですね。愛国だけなら、10頁で言いたいことを尽くさなきゃ。丸山真男教授から、「優」はもらえません。

百科事典の、「愛国心」の項目に解説するとしたらどういう記事を書くか(原稿用紙、10枚以内)。これを結論として載せて欲しかった。。。。そうすれば、みんなそれだけを立ち読みしてこの本、買わないだろうけど。それでいいのです。700円+税、を払わせるようなテーマではないのじゃモン。新聞やラジオが解説してくれればそれでチョンなハナシ。

いずれにしても、
愛国、とは、国民にとっては、ココロの問題、であり、それが国に対する行為に直結しますが、ココロの問題の部分を言葉に表現したところで誰にも干渉することはできません。これを評価するとかというのは、完全な錯誤。

しかし、公務員(天皇から議員、裁判官まで)は、ココロはどうであろうと、表現や行為は憲法を遵守する義務があると憲法遵守義務を憲法99条で規定されています。憲法99条を行動と言動で、遵守しているかを、常に監視されなければならないのは、公務員(天皇、国会議員、裁判官)なのです。

憲法さえ守ってくれれば、国を愛してくれようがいまいが、知ったことではありません。
by 古井戸 (2006-11-23 12:08) 

おたかさん

<憲法99条を行動と言動で、遵守しているかを、常に監視されなければならないのは、公務員(天皇、国会議員、裁判官)なのです。
その通りだと思います。
一般人民は「愛国者」であろうとなかろうと関係ないと思います。それを国=政府から押し付けられるのはご免こうむりたい。家族や友人たちやちっぽけな自分の周りの自然や環境を大切にするだけで精一杯なのだから。
「愛国心」を唱えている人々は、「美しい国」などと言いながら、大規模開発によって狭い国土の日本の自然を破壊し続けてきている。
by おたかさん (2006-11-23 16:57) 

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