ある映画監督の生涯 [Cinema]
新藤兼人『ある映画監督の生涯』は新藤の師ともいえる溝口健二の映画人生を、溝口にゆかりある人々(俳優、脚本家、など)を新藤自身がインタビュアとして尋ね歩き、フィルムに収めるという手法で人間溝口を浮かび上がらせようとしている。何度繰り返し見ても飽きるところのない、私の日本映画ベストフィルム、である。
映画は150分の長さだが、実際のインタビュは50時間にも及ぶ。インタビュのほぼ全体は、活字にして同名の書物として出版された。
先日NHK BSで再放送した新藤兼人(95歳)のドキュメント「新藤兼人95歳・人生との格闘果てず」(ハイビジョン特集)は、新藤兼人における、ある映画監督の生涯、ともいえる番組だった。
「京都の夜は最初から最後まで私が積極的だった。新藤は激流に流されまいとして岩肌にしがみついていた。しがみつく手を激流に落としたのは私。新藤は関係を持たされた監督と言えなくもない。」 乙羽信子『どろんこ半生記』
新藤: 「乙羽さんが全身でね。。身を投げかけてくるようなことがありまして。それでまあ。。私もそれを受けとめて、いうようなことで、関係ができたんです。」
裸の島
NHKのこの番組で新藤が語った話で一番印象的な箇所は、新藤監督と奥さんのある日の出来事である。新藤は、ほとんど自宅に戻っていない。たまたま自宅に帰った日の出来事である。その日、新藤は自宅の狭い庭に植えてある、茂りすぎた金木犀の枝葉を、剪定バサミでカチカチと摘んでいた。そのとき、突然、家から新藤の奥さんが飛び出し、新藤の手からハサミをむしり取って家に入った。。。
溝口の奥さんはある日突然、精神を病んでしまい、病院生活を送るようになった。溝口は一生、それは自分が愛人をつくり家庭を顧みなかったためと思い込んでいたらしい。
95歳になった新藤監督の作品は『花は散れども』(今年秋、封切り予定)。新藤の育った郷里、広島市五日市町、石内でのオールロケ作品。新藤の小学生時代の恩師や新藤の母。父の借財で母屋を取られてしまい、暗い、土蔵のなかでの親子生活。一心不乱に農作業に精を出し、蔵の中で死んだ母。新藤の生涯に影響を与え続けた人々と事件がこの新作映画にもつづられている。去年の夏、猛暑の二ヶ月をここで撮り抜いた。新藤の右目は緑内障、とかで物は見えない状態だという。作品のプロデューサは息子であり、新藤の身の回りの面倒を見ているのは孫娘の風(かぜ)さん。車椅子から演技指導をする。いつドクターストップで入院という事態に陥るかも知れぬ。大きなリスクを抱えての仕事である。
自宅で。。。
風: さあ、お風呂にはいるよ。
新藤: はいらない。
風: 入ると言ったじゃないの。
新藤: 。。。
風: じゃ、お湯を入れるからね。
新藤: いや、いれなくていい、はいらないんだから。
風: それじゃ明日の朝はいるのよ。いいね。
新藤: はいはい。
風: 約束します、っていわなきゃ。カメラに向かって。
新藤: ハイ、約束する。。。
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新藤:えェ。。フウちゃん。。
風: え、なに? 。。。。何でゴワスか?
新藤: 真面目にやれよ。
風: へへへへ、はははッ。。
この作品がオーラス、あとは天国への階段か。。と思っていたら、。。番組の取材後、監督、熱く次作について語り始めたのであると。。
シンドやん、エエカゲンにしないや!周囲の迷惑も顧みずにのぅ。
(きみら。。。ジコチューやめて、映画監督ができるとおもーとるんか?)
2008-02-28 22:13
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コメント(7)
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トラックバックありがとうございます。
記憶だけで簡単に書いた私のブログに対して、正確な出典情報となりました。風さんとの会話も一番おもしろかった部分が紹介されていて、イイなあといった感じ…
by 虫屋のもっちゃん (2008-02-29 17:00)
3年くらい前に、『ふくろう』の特集をBSでやっていましたね。そのとき、まだ十代の学生だった風さんが新藤をとっちめていた。
「それで、外に好きな人ができたときの、お爺ちゃんの心境はどうだったの?」
「むにゃむにゃ。。」
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大竹しのぶはエエオナゴになりました。
by 古井戸 (2008-02-29 18:49)
このエントリーの写真の中のちらりみえる顔いいです。観てみたいですね。
関係ないですけど、RSSでsonet批判のエントリーなくなってたので、Topからもたどってみたけど、無くなってますね。
もし、古井戸さんがご自分で消去したのでないなら、sonetホントにダメかもしれないですね。
by maji (2008-03-01 10:37)
映画監督はどいつもこいつも、ジコチュー、ですね。
私の知っている範囲で、成瀬監督はそれほどでもないようだが。
ジコチューなら溝口が随一。。とおもっていたが、新藤も段々、師にそっくりになりつつある。
sonet批判の文章は内容に重複が多かったので、一旦、下書きモードに戻しました。修正して復活させます。
この度のアップグレード?までは、記事の作成や編集をアップロードすると即刻、反映されていましたが、直後は、半日も掛かっていました。誤字や誤記を修正しようにもできない、、というのはカナリ惨め。
引っ越ししたいが、それも、面倒。。というのも悲惨。
どこか、いい引っ越し先、ありますか?
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トップの写真は、『ある映画監督の生涯』という本の表紙の右端に並んでいるフィルムの一こま、を拡大したものです。
by 古井戸 (2008-03-01 10:55)
あっ、復活してます。
sonetさん失礼しました。といううか古井戸様ご苦労様です、というべきか‥
こちら、マックのiDiscをレンタルフィー払って使ってます。ソフトはiBlogという今はもう開発をストップしてるのを、その筋の達人の御教示をいただきながら使ってます。ローカルのパソコンで書いてアップする形式なので保存の手間がないのが取り柄かな
iDiscのほうはフィー払ってる割には今一と思ってます。
もひとつ隠しでniftyココログ(無料の)に書きなぐってますが、ストレスはないです。
ども!
by maji (2008-03-01 13:58)
直江と申します、トラックバックありがとうございました!!
新藤監督自体の生涯もまた。
近作では「三文役者」の殿山泰司さんへの愛情ある視線が心地よかったです。
by naoe (2008-03-14 00:49)
だいぶ日にちが経過しました。。。
TSUTAYAで 安城家の舞踏会、さくら隊散る、墨東奇譚、を借りてきました。
by 古井戸 (2015-08-16 19:30)