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生と死    加藤周一 [Ethics]

                                       

                          写真:筑摩書房現代日本文学大系82(1971)月報から



「KSは主題の深刻さを、それを扱う表情・文体の気難しさとすりかえない。ただ彼は、昔も今も、論理的でないものには我慢できない点少しも変わらない。そういう話にぶつかると、むきになって戦う。彼が自分の感情に負けるのはそういう時であり、そういう彼の顔こそ美しいと思う人もいなくはないようである。」(吉田秀和、1971)

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「よく分からぬことについては黙るという断固とした態度をとったのは孔子とヴィトゲンシュタインである」(KS、夕陽妄語、8/23)。だからといって、喋ったことはよく分かっていることであるか、というとそんなことはない。むしろ分からぬことをわかったつもりになって大部分の人間はしゃべり続けるのである。

抽象的な死、あるいは、他人の死を観ること、語ることとおのれの死を語ることはまったく別のことである。

KS「なぜ死に抵抗するのか。すべての価値(望み、目標)の前提は「生」であり、「死」は「生の否定」だからである。価値は人によって、あるいは文化によって異なり、普遍的ではない」夕陽妄語、8/23、2006

生の否定、と、KSにいわれてもなにか理解が深まるわけではない。KSは、生のわからなさを、「否定」という論理用語に丸投げしているにすぎない。

物理的な死、と、生は定義の問題(新陳代謝を行っているか、脳は生きているか。。)そのものだが、思想の問題として、生と死は排反事象ではない。生なくして死はなく、死なくして生はない。世間で死ぬ、というとき、世間 - 個人の関係の変化(戸籍からの抹消、年金支払いの停止、その他)を語っているのであり、生と死の意味がこれで明らかになったわけではない。

KSは以上のことを要約して、言う:
「生は極めて複雑で、それを定義する特徴を列挙することは困難である。要するによく分からない。したがってその否定の内容もよくわからない。しかし遅かれ早かれ死が避けられないということだけが確かである。そういう状況に対してどういう対応が可能だろうか」KS、同上。

KSが避けられないという「死」は肉体の死である。肉体の死は個人の死であろうか?これも定義の問題だが。モノは目に見え手で触れる。モノはそれを観たり考えたりする主体の存在とは独立に「存在する」と考えられている。こころは目にみえず手で触れないが「存在する」。このふたつの「存在する」は字面は同じだが、意味内容(レベル)はまったく異なる。

死とは何か。 結論を得て死ぬのでなく、考えながら死ぬ、他人に一切こびることなく、他人と群れることなく、個としてあたかも石ころのごとく宇宙の粒子として永遠の海に還ることができる。死とは人間だけの特権である。人間に死があることはなんたる救いであることか。

追悼 加藤周一 http://furuido.blog.so-net.ne.jp/2008-12-14
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すずめ

死とはなにか、と問うから 答えが無い。
なんでもいいが、どんなことでも それは何か?と問い詰めて
なにがしか 答えを手に入れたことが あるかい? 
だから それは何かと問うのでなく、別の形式の問いを発すべきかと。。
by すずめ (2006-08-26 22:20) 

古井戸

10円玉とは何か?と 死とはなにか、生とは何かをとうのは異なる。
どういう問いを発するべきかを思考しているのである。
問い方が指定できれば、すなわち問題は解決。

10円玉とは何か、を知るのに、10円玉の定義を列挙はできる。それは10円玉とは、まず定義から設計された人工物だからである。しかし、生と死は、まず最初に存在するもので定義から作られた物ではない。人間の有限性と同義だ。ひとりの人間の精神と肉体がが無限の昔から無限の未来に永遠に続くモノでない、と了解すればしかしこれは必然的に受け入れざるを得ない前提となる。死は何かを失うものでなく生まれる前にもどるだけ、我々の先祖がいたところ、いるところに帰郷するだけである。

いずれにしても、生とは何か、死とは何か、は問うことが可能な問いであるとおもう。問うのがむだであると証明できるまでは。
by 古井戸 (2006-08-27 06:25) 

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