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『滅びゆく国家』 立花隆著 書評 [Book_review]

                                         

        

『滅びゆく国家』 副題:日本はどこへ向かうのか 立花隆著、日経BP、2006/4/17刊
500ページ、2200円。日経BPのWebサイト『立花隆のメディア ソシオ・ポリティクス』の中から若干の編集を加えてまとめたもの。この本では読者の便を考えて、Web発表の時間順序はくずして、主題別にまとめてある。章編成は次の通り。( )内の数字は割り当てたおよそのページ数。
第1章 ライブドアショック ---- 会社とは何か (90)
第2章 天皇論 ---- 女性天皇・女系天皇の行方 (50)
第3章 靖国論・憲法論 ---- なぜ国立追悼施設はできないのか (120)
第4章 小泉改革の真実 ---- その政治手法と日本の行く末 (60)
第5章 ポスト小泉の未来 ---- キングメーカーの野望 (60)
第6章 イラク問題 ---- ブッシュ政権の欺瞞と日本の責任 (40)
第7章 メディア論 ----- 耐震偽装・NHK問題の本質 (50)

まず第四章と第五章はもはや話題性に欠けている。賞味期限も過ぎている内容は、本にするにあたっては削除しても良かった(第六章も、か)。

記事全体として繰り返しが多い(ウェブ記事だからしょうがないが)。パソ画面を印刷しただけなのだから、ハードカバーでなくソフトカバーとし、値段も下げられなかったか?それに、そのまま紙にするだけでは脳がない。読者の反響もすこしは取り入れたらどうか?
立花の文章は口述筆記のようなまるっきり、飾り気のない文章(そのぶん、サッサと読めるという利点はあるが)、ただし、ダラダラ感、あり。ぼんくら東大生などを顧慮せず、小難しい語句など交えてくれると眠気防止になるのだが。。。

以下、章別にコメント。

●第1章 ライブドアショック
結論として、国民が本当に知りたい闇の世界に一歩もつっこめていない。
堀江社長(と株主が)が外資リーマンブラザーズに、「むしり取られた」、というオナジミの構図を明らかにしている。すべてのストーリとあり得る事態を「想定した」プランはすべてリーマンブラザーズが立てたのであり堀江はその構図の中で踊らされていた。(検察の登場、ということもリーマンブラザーズの想定内であったろう。なにが生じようと、ぼろ儲け、なのだ)。検察や政治家の行動パターンに関する記述は立花のお手のものだろう。その分信頼を以て読める。

気になったことを一つ。
堀江がニッポン放送を乗っ取った事件について、立花は
「メディアの中でもラジオほどインターネットとの融合に不適当なものはない。ラジオはそもそも手が離せない、眼を使わなくて良い仕事をしている人の「ナガラ聴取のための」メディアだから、手と眼を必要とするインターネットと組み合わせることがいちばん難しいメディアなのである」p59でいっているがこれはおかしい。逆である。「ながら聴取」ができるからこそ素晴らしいのだ。わたしはこの2ヶ月TVなしで過ごしてきた。いつも椅子の直ぐ横に置いている24時間点けっぱなしのTVが故障したのだ。そのかわり、TBSラジオを24時間点けている(NHKはほとんど聴かない。コンテンツがつまらないのだ)。パソで仕事をしながら「ナガラ聴取」ができるヨロコビを満喫している。TBSは政府批判などをNHKとは違い自由にやっている。それに、重大なニュースや海外情報もチャンと入れている。庶民の声も電話ですくい上げている。つまり世の中のことは耳でわかるのだ。気になる情報を聞き取れば、ただちに、パソで検索すれば文字情報は得られるのだ。TVの場合はどうか?「音声+画面」情報のパッケージで視聴者に伝えるメディアだからナガラ聴取、というわけにはいかない。耳だけでは伝えたいことが伝わらないのだ。わたしは、ラジオは十分生き延びるメディアであると思う。ラジオにもニュースチャネルを設けて、海外ニュース(LDN、NYK、北京、パリ、イラク、。。)のホットニュースを流してくれるのは大助かりである。いちばん良いのは新聞やTVと違い「眼を向けることがいらない」ことなのだ。米軍のニュース(AFN)の定時ニュースでなにをやったか、あるいは米国メディア、BBCのトップ10ニュースは何か、を定時に入れるだけでもラジオの価値は十分ある。たとえば、TBSが立花と契約して、「立花の本日のニューストップ5」という情報を電話インタビュしたらどうか?電話でのTBSキャスタとの応答は、一方的な(チャットでないかぎり)書き込みとは違う話者のもつ情報に対する観点を引き出せるのだ。もちろん、引き出す側のキャスタの実力も問われる(NHKには信用できる、つまり権力に尻尾を振らない、キャスタがいないのである)。立花クラスの情報通を何十人と契約しておけば(支度金、ダイジョービ?)、コンテンツばっちしだろう。海外レポート(現在でもある)も、現地滞在のビジネスマンと契約して、ドンドンその都度ベースで入れれば、一日中、ラジヲ点けっぱなしだよ。(もちろん、外国語大丈夫であればいまでも海外ニュースはオンラインで聞けるが)。

もひとつ。検索エンジン(グーグル)のはなし。グーグルの商売を説明している。グーグルは利用者の利用記録を徹底的に収集し、加工して、利用可能なデータ群を顧客企業に販売して収入源としている。(むろん、個人情報にふれない抽象データとして)。立花はグーグルサービスのひとつであるGmailについて説明している。立花が、メールに
「最近おれのパソコンが故障したよ」
と打ち込むと、即座にパソコンの宣伝が出現したそうだ。
「こんど、xxxを殺ってやろうじゃないか」
などと打ち込むと、鉄砲(闇商売ね)や包丁、ノコギリ販売店が、出現するのか?

堀江事件でもわかったように、いくらパソからメールを削除しても専門家なら簡単にディスクから復元できる。中国などはグーグルが政府にすり寄っているから、個人情報など簡単にアクセスして個人の思想信条など調査しデータベースを作れるだろう。米国では電話会社がホイホイと通話記録をCIAに差し出した。世界の大都市にはグーグルの巨大ビルができつつあるという。「ビッグブラザー監視社会」というより、ベンタムが夢見たパノプティコン(集中監視型刑務所)を国民の目の届かぬ裏世界(バーチャル)に構築するのは現在の技術なら朝飯前であろう。Web上の魑魅魍魎。ネット社会、とは管理社会、監視社会の別称である。
http://www.ntt-west.co.jp/solution/hint/jpn/story/0509/pop_01.html
http://www.h5.dion.ne.jp/~allinone/words/panopticon.html

●第2章 天皇論
女性天皇でおかしくないこと、天皇は国民の支持があってこそ認められるものだ(憲法第一条)ということを説得的に述べている(『天皇と東大』の主題と重なる)。Y染色体論のナンセンスを述べ、ミトコンドリア説を展開。皇室典範など簡単に変更できる、ということを述べている。

●第3章 靖国論・憲法論
p214以降の憲法論は、あたりまえのことを述べているに過ぎないが、これは立花がなにも参考にせず打ち込んだ箇所だと思う。(憲法99条の重要性)さらに、「憲法第九条はグローバルスタンダード」という9条論p223、から基本的人権論をつづけるp250までの憲法論などこの本でもっとも優れた記述とおもう。とくに記述に参考書を使用したわけでもなく、立花の知識の一部を、一筆書きに、はき出したに過ぎないのだろう。さすが、である。

コイズミは中国韓国を訪問し、理由を説明して、靖国を参拝するのなら中韓もみとめるだろうという提案など。

それにしても、中国大陸で日本が何をしたか、など誰も教育していないのだからひどすぎる(小中高校だけじゃなく大人も、中国大陸ですくなくとも1000万人が死んだことを知らない)。これで、中韓が反日教育をするな、などとはいえまい。

私のブログ記事「東京裁判」との関連について。立花はこの章で「東京裁判を勝者の裁判として無視したがっている連中がいるが、東京裁判の結果を承諾する、とニッポン国政府は1951年の サンフランシスコ講和条約 で約束したのだ。その前提をひっくり返すのなら、あの戦争の当事国すべてと、交渉をし直す必要があり、もちろん、国連から脱退する必要がある。当然のことながら、常任理事国入りなどという野望は夢の夢」 と述べている。当然である。私の記事は、公式には立花のいうおりだが、同時に、立花も認めているとおり、法的におかしい部分は存在する(そも、戦争の終結にだれしも異存ない決着の仕方などあり得ない)のであり、その部分を、ニッポンジンはどのように理解して、自己の感情と、正義感に収まりをつけ、自己了解すればいいのか、という問いに対する私の回答である。

この章で指摘している重要な事実は、最近の、中国の学術と技術のエネルギのすごさだ。p271 学術論文誌に掲載される論文誌の質、と量はそのうち、日本においつき、凌駕していくであろう、と。立花にいわれなくても、その逆を、予測することは誰も困難と、日本国民は意図的に選別報道される報道から、うすうすは予感しているだろう。

ある日本人専門家の意見 「。。若手研究者の人材の厚みが違う。あと5-6年もすれば科学技術分野のほとんどあらゆる分野で日本は中国に追い抜かれる。一般の日本人はそういう事情をほとんど何も知らないから、科学技術は日本が上と思っている。科学技術分野で中国に抜かれたら、経済上の日本の優位もすぐに消えます」

反日教育をしてもらっている、いまが、花、であり、そのうち、見向きもされなくなるということか。
(中国共産党の将来を、どう予測しているのだろうか?専門家は)

●第7章 メディア論 p446
月刊現代2005年9月号の魚住昭の記事「『政治的介入』の決定的証拠」を掲載しているのがありがたい(この雑誌、わたしは読み損ねたから)。
魚住は入手源をあきらかにしていないが、中川議員と松尾(NHK放送局長)とのなまなましいやりとり(朝日の本田記者との)を掲載している。

##
松尾 「北海道のおじさん(中川議員)は凄かったですから。そういう言い方もするし、口の利き方もしらない。どこのヤクザがいるのかと思ったほどだ。」p450

##
本田 「放送中止を求めたのですか」
中川 「まあ、そりゃそうだ(略)」
本田 「これは報道や放送に対する介入だとは思いませんか?」
中川 「俺たちと逆の立場の人間から言えばそうだろう。オレは全然そうはおもわない。当然のことをやった」

(立花: 中川代議士は、圧力を掛けたことそれ自体はこういう形で認めているが、同時にこんなことも言っている)

中川 しかしだね。連中もそんなもん毅然として拒否したらいいじゃないか。そのほうが、君たちの言い分としても筋が通っているんじゃないの?

本田 全くその通りです。

##

これに続けて立花は、「筋論としては、中川の言うとおりで、政治家が何を言ってこようが、NHK側が毅然としてそれを拒否していれば、問題は起きなかったろう」とのべている。p452

ぶっ飛んだよ、おれ。

中川に「君たちも毅然として拒否したらいいじゃないか」と言われて、朝日は何をやったのか?社内の内部調査をして、だれが、この記録を魚住に漏らしたのかを探査しただけである。どうしてこれで、NHKを批判できるか。

あきれてものが言えない。どおりで、中川がでかいツラ、しつづけられる分けだ。NHKの能無しぶりはいまさら言ってもしょうがないが、恫喝政治屋にコケにされて恥ずかしくないのかい?朝日は。

滅びゆく国家。
国家を滅ぼすのは、権力に尻尾を振ることしか知らず、職業倫理に欠けたマスゴミである。

●追記:
第7章。耐震偽造問題を追及し続け、民社党馬淵議員との連携で話題を呼んだ「きっこの日記」。立花も注目しており、この きっこ、たる人物の正体を推定している。p482 アネハに近い人物が情報源である、としている(もっとも、立花の予測、あまり当たっていないようだ、たちばなし、として聴こう)。わたしも、だいぶ前まできっこの日記を読んでいたがいつのまにか止めてしまった。つまらないのだね。 立花には、ライブドアやこの耐震偽造、「官僚問題」として追及して欲しかったのだが。やってもしょうねえか、いまさら。。。

関連記事:
公共放送はNHKだけの独占物ではない   http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2006-03-23-2
ライブドアの行方、あるいは官僚たちの春 http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2006-03-15


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マリリン

難しいはなしですが反日教育がなされる意味も当然だし
靖国参拝は日本の歴史教育を改め心から対話すればと安易に考えてしまいます。日本が大戦中にしたことにいまだ責任をアジア諸国へも自国民にすら行っていないような気がしました。
by マリリン (2006-05-17 09:40) 

古井戸

反日教育は政治的だ、といいますね。
いいじゃないですか。
わたしが、政治家なら、上海や北京で討論会を開いてもらい、殴られるのを覚悟で出かけますよ。言いたいことを言います。
反日教育がけしからん、というなら、その主張を北京やソウルでやればいいのです。

竹島問題についても同じ。
竹島問題討論会をソウルでやればいいのです。それを開けないようなビビリマンなど、失せろ、です。
by 古井戸 (2006-05-17 09:45) 

通りすがり

ラジオのところの批判、ずれていませんかぁ?
立花は「ラジオほどインターネットとの融合に不適当なものはない」と言ってるわけでしょ。少なくともあなたはそこだけを引用した。それなのに「これはおかしい。逆である。『ながら聴取』ができるからこそ素晴らしいのだ」と批判している。「インターネットとの融合に不適当」という言葉にはそもそも素晴らしいか素晴らしくないかというような価値判断はありません。ただ不適当だから不適当と言っているわけでしょう。(それに「融合」と並行使用とは意味が違います。あなたはここでもずれた捉え方ををしています。)それを、いやこれは逆でラジオは素晴らしいのだ・・・とずれたコメントを出すということは、そもそもあなた自身が「インターネットとの融合」ということを我知らず(そして恐らくは無根拠に)“すばらしいもの”と評価しているからではないのですか?
たまたまこの部分が次元の低い明らかな形で扱いやすかったのでここを使いましたが、全体にあなたの文章は言葉というものに鈍感です。他者を批判するなら、当然緻密であるべきでしょう。その緻密さがありません。もう少し“言葉”なるものを勉強されることをお勧めします。
by 通りすがり (2006-05-20 10:26) 

古井戸

ども。毎度のお越しありがとう御座います。

> (そして恐らくは無根拠に)“すばらしいもの”と評価しているからではないのですか?

かもしれないし、でないかも、ですね。なんといってもこのブログ自体、ネットを活用しているから、そこそこの義理は払っておかねば。ラジオ、というより 画面(視覚) と 入力、に加えて、聴覚というものは併存しうる、ということをいいたかったのです。 わたしは、ポータブルラジオでラジオ放送を聞くが、もちろん、ネット経由で画面から海外放送をバックグラウンドで流しながら聞くこともあります。ラジオもネットとおもっていいのです。 つまり、原理的にインターネットに取り込まれない媒体など考えられないということ。そこまで考えれば、融合、というのは当たり前のことでしょう。

ただ、Web進化論、で著者は グーグルで画像の検索が不得意、といっているが、音声情報の検索もまだ現実のモノになっていない、そこがテキストの融合、と意味が違う、程度だと思っています。

わたしの文章(つまり思考)に緻密さが無いことは了解しています。そのための修業の場としてここを利用しています。(ネットや刊行されている数々の書籍に、緻密な文章がそれほど多い、とも思っておりませんが) 緻密さを期待してここを訪れたのであるのならば、期待はずれでも相済みませぬ、といっておきます。緻密さを獲得した頃、ブログ利用も止めるでしょう。

同じような批評を最近、別のところで受けたのだが。。どこだったか。いや、記憶が薄らぐのもよいこと、だ。
毎度のご教示ありがとうございます。
by 古井戸 (2006-05-20 12:12) 

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