SSブログ

Web進化論 [IT]

Web進化論 梅田望夫著 筑摩新書

いわゆるネット本にまともな本がない、というのは私のせまい経験。(除く、純技術本。たとてば、O'reillyから出ているプロトコル解説などだ)この本も買ってみたが、インパクト無し。
誰の視点で書いているのか、が明確でない。Googleビジネスについて書いているようだが、Web技術本ではない。Google検索方法の解説本でもない。では、何について書いてあるのか、よくわからない。。わたしは、自営業を営む一般庶民(私)や学生、の視点からネット(とくにWebサービス)とはなにか、を論じてみたい。

1 チープ革命、と著者は言うが。。
何がチープか?情報取得がチープ?冗談だろう。パソコンがなければネットは使えない、
サービスプロバイダに加入しなければネットは使えない。今のパソコンは数年で買い換えないと
ちゃんと動作しない(ブラウザのバージョン、アンチウイルスソフト、それにOS)。しかも、マニュアルなどは付いていないから、電話ヘルプデスクにお世話にならないと機能をすべて有効に使えない。ほとんど、一般人にとってはパソコンは半製品、高い買い物、とわたしは考えている。
石田教授は数年前の岩波新書で、3年くらいでPCを買い換えろ、と言っていた。もちろん、ハードとソフト込み、であろう。これが、チープ、か? チープ、といえるのは、ITで飯を食っている業界人、やコンサルタント(梅田、など)だけ、だろう。

2 検索システム(Google)
わたしは翻訳業を営んでいるが、Googleにはお世話になっている。辞書などはほとんど引かないが、googleを辞書代わりに使っている。ムスメにもPcを与えたが深夜遅くまで怪しげなサイトを楽しんでいるようだ。著者は、googleのようなプロ集団の提供するシステムを 「あちら」、パソの(ブラウザ)ユーザを 「こちら」と呼んでいるようだが、いまやパソというのはネットなしでは用をなさない。TV端末だけでは番組が見れない、のと同じこと。番組提供業者(テレビ局)とTV端末は一体なのである。あっち、とか、こっち、とかいう意識は無い。普通のユーザはネットのプロトコルなどまったく意識しないであたかもパソなかに、世界中の情報が詰まっている、という感覚で使っているのだ(これが、ネットの意味=目的、である。トランスペアレント。いわば、あちら側を、「こちら化」するのがネット)。
Googleのような情報検索会社はコマーシャル収入で成り立っているようだが、これは普遍的というより現在タマタマそうなっている、ということにしかすぎまい。Googleのようにゴミのような情報も力任せに検索してくれるのがいいのか、あるいは、特定著者、とくていのコンテンツ発信会社と契約してかなり高額の情報料を支払う、という形を選択するかは、ユーザの目的次第だろう。たとえば、日本の歴史を通覧したい、近代とは何か、資本主義とは何か、を知りたい。。こういうとき、ネットを検索するのは一手段にしかすぎず、普通は信用の置ける著書を読む。オブジェクトとしての多量の情報、を求めているのではなく、情報を視る見方、を手に入れたいのだ。視るのは人間である。最終的には人間を知りたいのである。情報は機械からは出てこない。すべての情報は、特定の人間が、特定の価値観をもち、特定の視点から作り出しているのである。

3 Googleは「知の発電所」か?
Googleの発言「検索エンジンに引っかかってこない情報はこの世に存在しないのと同じですよ」。
たしかにGoogleしか情報源を持たないパソコンユーザにとってはそれは正しい。逆に言えば、Googleは情報の発電所、ではない、ということだ。情報はGoogle外の「人間」(機械ではない)が生み出すものであり、Googleはある秩序に基づいてそれを並べて見せるだけである。この秩序、はGoogle側が準備するモノであり、意地の悪い見方をすれば、ユーザに隠すことも簡単にできる、ということだ。(この本と前後して発売された筑摩新書原田武夫著「騙すアメリカ騙される日本」を読むといい。ネットの標準は米国の制御にかかる。暗号化も、米国で解読できるようなものでないかぎり標準化はされないだろう)ヒット数が高ければ、価値ある情報、とはいまや、誰も思うまい。この点について、著者の指摘している2つのことは興味深い。
A ロングテール現象 第二章
B 高速道路の先の大渋滞 (将棋の羽生善治の発言)
である。
ロングテールとはたとえば、年間の本の売り上げ数(あるいは、hpのヒット数、ヒット曲。。)を横軸にとって並べると次の図のようになる、ということだ。
1================================================
2=====================
3=============
4======
5====
6===
7==
8=
9=
1=
2=
3=
4=
5=
たとえば、数百万部売れたという馬鹿の壁、が1である。売り上げ順位数百位以下には、売り上げ点数数千数百の書籍(CD、hp)が死屍累々と控える、ということだ。この、死屍累々リスト、をロングテール、というらしい。私は翻訳が商売だが、たとえば、floor layoutをこさえる、というとき、動詞は、makeなのか、
createなのか、と悩むときgoogleで、 will * floor layoutなどと句検索をかける。すると、よく使われる(使用頻度の高い組み合わせ)動詞がだいたい見えてくる。注意すべきは、いわゆるコロケーションとしてよく案内されるのは頻度の高い動詞、であるが、なるほど!と、唸るような動詞ではないこと、である。われわれのようにビジネス文書の翻訳ならGoogleでチンタラ検索をやっていれば十分だが、作家や文芸翻訳をやる人々はとてもGoogle検索では間に合わぬだろう。同じことを、羽生善治は言っているとおもう。将棋の差し手は今やすべてデータベース化され誰でもたやすくアクセスできる。プロでもネットを使って研究しているらしい。しかし、プロは定石を求めているのではなく、相手に勝たなければならない。相手に勝つ、ひとを唸らせる奇手、表現を生み出す、つまり、月並み句、ではなく名句、超絶句!を生み出す力はネットからは得られない、ということである。(もちろん、羽生さんにヒマと金があれば、自分で知能程度の高いシステムを作るだろう。。それはGoogleとは似ても似つかぬモノになることは確実だ)工学分野で情報理論では、情報の価値が高いのは出現頻度の低い情報、であるとまず習う(シャノン流の価値定義)。

この本を読みながら私の頭の中は、20年前に出版された米国人(夫妻)J.Lipnack&J.StampsのNetworkingという本(その翻訳=ネットワーキング、はプレジデント社から)がチラチラと頭をかすめていた。Lipnackのいうネットワーキングは今では驚かれるかも知れないが、電話と郵便による通信で結ばれたコミュニティのことを言うのだ。生活の価値の共有を目指して、
治療のネットワーク
共有のネットワーク
資源利用のネットワーク
価値のネットワーク
学習のネットワーク
成長のネットワーク
進化のネットワーク
に関して、様々な地域活動を繰り広げており、多数のネットワーク名鑑を添付している。もちろん、郵便アドレスと電話番号を付けて。今なら当然URLアドレスを付けているところだし、そも、この本の内容をすべてネットで公開しているだろう。わたしは、この本の和訳が出た年、ニューヨーク駐在が決まり、この本を携帯して旅だった。この本の付録として、ネットワークづくりの手法というメモを著者は付けている。
(1)役に立つ人間になりなさい
(2)退屈させてはいけない
(3)よく注意しなさい
(4)質問をしなさい
(5)憶測をしてはいけない
さらに、若干の助言として次を掲げている。
1 必要なときにはいつでも取り出せるような情報の保存方法を考えなさい
2 リラックスしてやりなさい。リラックスしてやることはよいネットワーク作りの秘訣だ。。。(以下略)
3 一般的にいって、地域でのネットワーク作りにはもっぱら電話を使った方が良い。そうでなければ手紙がよい。そのほうが安上がりだし、見知らぬ人に対して無礼にならない。
4 葉書を使いなさい。葉書を書いてみると、本当に書かなければならないことはずいぶん少ないものだとわかる
5 封筒は何度でも使いなさい。受け取った封筒の多くはすでに一度は使ったことがあるものだ。封筒は十分気を付けて開封しなさい。さもないともう一度使うことができなくなる。
(以下省略)

この、5のアドバイスには私はココロから感激した(モッタイナイ、は日本の文化などと、ほざいているのはどこのだれだ?)。NY勤務後もペーパーナイフを買い、封筒は丁寧に開けた。実際、使い古しの封筒でレターを受け取った場合、差出人の人柄がしのばれる、ということではないだろうか。

Googleは有用なツールだ。だが、市民生活の幸福を約束するものではもちろんない。われわれは、その活用法を試行錯誤し、獲得しなければならない。

書評からだいぶずれてしまったようだ。なお、Lipnack夫妻はその後も元気で活躍されている。Teamwareなどの分野に関する本を出しておられたようだ。


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

滴水

今晩は。花輪を贈るつもりできたのですが、ボリュームがあるので、タジタジしてます。
で、「ロングテール」について、わたし、いまは品質関係のセクションにいるのですが、根っからの品質屋さんは「パレート図」というものを使います。手っ取り早くいうと、会社の収益の8割は2割の人が稼ぎ出している、つまり障害件数の8割は、主要な原因の頭から2割程度のものが発生させているのだから、こいつをつぶせって話です。
逆にいうと障害件数の残り2割を完璧にクリアしようとすると、楽してやったやったという人の4倍以上も苦労しなきゃいけない、ちょっと不正確ではありますが、これがロングテールです。
本屋さんの場合はあのクソ重くてかさばる代物を全部そろえても売れ筋2割が、売り上げの8割を占めるとなれば、ロングテールなんか気にしていられない・・・。でも、アマゾンだったら、売れない8割の中の特別なものにご執心のマニアさんを相手にロングテール部分を商う仕組みも可能。これがIT時代の・・・というわけらしいです。では。
by 滴水 (2006-03-15 00:31) 

古井戸

ども!
パレート図、Googleで、早速調べました。
http://www.mitsue.co.jp/case/marketing/01.html
本について論じるなら、都内の大書店とわたしの住んでいる小都市にあるちっぽけな本屋では比較になりませんね。ベストセラーも置いてないことが多い。商売人にとって、ロングテールの意味するところは滴水さんのおっしゃるとおりで、この本にもそう言っているわけです。問題は、ロングテールならぬショートヘッド?の位置にくるための基準はなにか?ということです。御大パレートは高額納税者の上位20%が総税収入の8割を占めるという経験則を表現した、とありますね↑。これは事実として受け入れざるを得ません(税制度、も、その分布を予測した上で定めてあるはず)。本の場合は、宣伝費、本屋の場所代、などを最小限にして売り上げを最大にしたい、という明確な目的があります。しかし、Googleの見地はどうなのでしょうか?Googleは宣伝収入で喰っているらしいが、検索する場合の情報配列の仕方にどのような影響があるのでしょうか。ヒット数の多い順番に情報を配列する、というやり方だけではその順番を意図的に制御できると思います(その気があれば。。)。アマゾンでもそうですが、売れ筋の本、などあまり信用できません。では何を根拠に本をえらぶか、が問題。内容紹介や、書評を読んで、あるいは、内容の一部をネットで読んで(米国アマゾンなら内容の一部目次や索引を見せてくれる。日本アマゾンはこの点さっぱりだめだったが最近やっと内容を見せようとしている)購入する。しかし、調べ物の件数が多いとブラウズ時間も馬鹿になりません。公認の検索専門家という職業がありますが、そういう能力を一般人も簡単に身につけるような教育を中学高校からやっておかなければならない、とおもいますね、これからは。ガセ、を捕まえないような基本わざ、と鍛錬。

品質管理、についてのロングテールは高度なテクと眼識がいるのではないでしょうか。テールかヘッドかの判定基準そのものが問われます。。などと、お茶を濁してエエのだろうか!
by 古井戸 (2006-03-15 09:18) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。