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『発明マニア』 (毎日新聞社) 米原万里 [Book_review]

                              

http://mainichi-shuppan.com/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-620-31805-9

まずこのボリュームに驚く: 500頁、二段組、小さな文字でビッシリという分量。この本の内容はサンデー毎日の連載:2003/11/16 ~ 2006/5/21。 ということは、米原万里が癌で亡くなる直前まで、書き続けたと言うことだ。しかも、週刊文春・書評と並行して(『打ちのめされるようなすごい本』)。

米原万里の発明本、工夫本、How to 本。。。というのが本書の案内・宣伝だが、『他諺の空似』、と同じく万里の眼の届かざるところ無く、地球の東西南北、時空を貫く辛口の時事評論、あるいは書評としても十分通用する内容である。

最後のページからめくると。。

2006/5/21 国際化時代に最も不向きな対立回避症克服法

2006/5/7・14 居座る借家人をなるべく金をかけずに追い出す法。。借家の話から、年間六千億円を越える対日駐留経費を踏み倒している米軍。。の話まで。

2006/4/30 不眠症に効く最良最強の薬 2006/4/16 勝利で負けたと見せて実利はガッポリいただく裏技のお手本    チェイニー@イラク、の金儲け方法。。

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書評なら本を与えられればなんとか書けるだろう。『他諺の空似』のように 諺、とテーマが決まっていれば辞典をひっくり返し、それに時事話をからませれば、なんとかこなせるだろう。。この本のようなかなりセバイ内容をどうやってこなすのだろうか?想像するに、万里ぃは、週刊誌、新聞を読みながらこの本のテーマになりそうなものをチェックし、メモを貯めていたに違いない。など、と考えながら読み進めるうち、p292、#71 「故ローマ法王・ヨハネパウロII世の秘密大発見」まで到達。。。これは。。スゴイ。。KOされてしまった。ここでは絶対に、話せない。とにかく抜群の小話クリエータ、としか言いようがない。その発想の豊かさに驚くと共に、癌におかされ、闘病中にもかかわらず、途切れることのないユーモア感覚と、批評眼の鋭さ。亡くなって一年が経った今、また万里ぃ魂で勇気づけられる。感謝、というコトバしかない。

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毎回、イラスト付き。 イラストレータ=新井八代 ARAI YAYO 。。これは米原万里の別名である。。

挿絵@最終回2006/5/21            挿絵@2006/5/7・14

   

4/16 追記

夕べ、床で考えたのだが。。万里さんがサンデー毎日、週刊文春で連載をやっていたのは、闘病生活に耐えるための作戦・発明だったのかもしれないな。闘病だけ、の、日常ではそれこそ耐えられない人生になる。

4/17 追記

読み終わった。毎回、長さにして。。そう、天声人語の4~5倍の短文エッセイだ。とにかく何を書いてもよいとはいうものの、シリーズ名として<発明マニア>と冠している連載だから一応ソレらしい体裁と内容にはしなくては読者と編集部にアイスマヌ、くらいのことは考えたのか。スゴイ、とおもうのは文章をアキさせず読ませる、文章の運び、歯切れ良さ、これは天性のワザ、である。おそらく通訳業から得られた、コトバとはこうあるベキもの、という文章エシックスが万里ぃにはあったのだろう。 出だし、途中、それに、締め、の一句も素晴らしい。 〆の一句をあらかじめ考えて、書き出すのだろうか?それとも、そろそろこの辺で〆なきゃ、というときに〆の一句が自在に浮かんでくるのだろうか。

とにかく、マリィのこのエッセイ、文章のオーラス、〆の一句だけを拾い読みしても面白い。

知的関心、情報量なら『打ちのめされるようなすごい本』、エンタテメントなら『発明マニア』、『他諺の空似』 。。と、とりあえず言えようが、もちろんこの双方の能力、相互に支え合っているのだ。

改めて言うまでもないが万里さんの本を読んで、快適なのは、日本語のリズムがよいこと、どの一行を取っても意味不明の箇所はもちろんない。さらに、内容が薄くない。この本の場合、ファクト(とくに科学に関する、ファクト)に強くないと、一行も書けないタイトルが多い。ファクトに強いからと言って大学の理学部教授には論文は書けても一般庶民が読んで愉しくタメになるエッセイが書けるわけでもない。新聞社の科学部記者よりは万里ぃさんのほうが科学性、論理性に勝る。たとえば、

#64 温暖化による海面水位上昇を食い止める法

#65 同上、その二

#80 森林資源を守りゴミを少量化するための紙の複数回利用法

こんなタイトルで週刊誌見開き二頁にエッセイを書こうとするとカナリの苦労である。材料は科学的ファクトであり、想像の産物だけではこなせない。

p269 #65から抜粋。

 「この砂漠化が生じる仕組みというのを見てみよう。

地球温暖化による雨量の減少や気温の上昇、過剰消費状態にある先進国国民の生活を支えるための無茶な森林伐採、土地の酷使などによる土地荒廃によって、地表面の水分が激減し、そのことによって空中の水蒸気が減少し、地表の温度の上昇を促すため、さらなる乾燥が進行し、乾燥した地表面の微粒分子が空中に舞い上がり太陽光線を吸収する。この微粒子は太陽光線を遮り、地表面を冷却する一方で、微粒子が吸収したエネルギーが低空の大気を温め、地表と低空大気の温度差が少なくなる。その結果、降水量が減るため、さらに土地の乾燥化が進むという絵に描いたような悪循環で、しかも加速度がついてきているのだ。」

科学のコトバである。下手に説明するとごてごてする内容を、実にスッキリ説明している。

#65の書き出しは。。。

「前回(#64)はカーボン・ナノチューブで月面に海水を送り込む方法を提案したが、もう少し安上がりかつ手軽に済ませられないものか、愚考した」

ひとを喰った、まさに我が道を行く、というか。知識と度胸、文章力のある実力派でないと書けないエッセイなのである。

 

(挿絵)地球からチューブで海水を月に送る。。

 


米原万里 『打ちのめされるようなすごい本』 書評
http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2007-01-04


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和法

古井戸様、はじめまして。トラックバックいただきありがとうございました。
“試稿錯誤”というブログタイトルは、万里さんが喜びそうですね。初めに「オリガ・モリソヴナの反語法」を読み、そのスケールの大きい物語に惹かれました。生前の万里さんを知らなかったことは残念(不勉強でした)ですが、万里さんが残してくれた本から学びたいです。
「試稿錯誤」からも学ぶところが多そうです。これからもよろしくお願いいたします。
by 和法 (2007-06-09 21:53) 

古井戸

文章修業のつもりでブログ記事を書き始めましたが(翻訳業をやってます)。。恥のカキっぱなし、のようです。万里さんより長生きしているぶん、彼女の闊達、テキパキした行文を目指そうと思います。
by 古井戸 (2007-06-10 03:24) 

センツル

古井戸さん

はじめまして。ブログへの書き込み、ありがとうございます。
米原さんのご本を読み始めたのは、彼女が亡くなられてから。
読了したのはまだ数冊ですが、手に取るたびに、米原さんの筆力に「打ちのめされ」ています。
闘病から旅立たれるまで、本当に凝縮した生のなかにいらっしゃったことに、改めて胸打たれます。
by センツル (2007-06-10 13:40) 

dohokids

TB感謝。『打ちのめされるようなすごい本』を読んで、次に手にしたのが『笹まくら』でした。古井戸さんの書評を読むまで、この本の位置づけには考えも及びませんでした。脱帽です。
by dohokids (2007-06-11 10:11) 

古井戸

dohokidsさん。
笹まくら、等への反応は万里さんの父親が共産党員、アカ、だったからくる経験が反映しているのじゃないか、とおもっています。

介護業者コムスンの不始末が話題になっていますが、介護保険制度、ヘルパー派遣業で甘い汁を吸っている官僚を木っ端みじんにやっつけている文章を去年読んだのだが、あれはいつ、どこ?。。とおもいながら昨日、片付けるつもりで手に取ったのが万里著『他諺の空似』。 p41以下の記述。
もしまだでしたら是非どうぞ。
by 古井戸 (2007-06-11 12:49) 

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