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米原万里  『他諺の空似』 書評 [Art]

                                        
                             2006年5月25日鎌倉の自宅で死去、享年56歳

光文社、2006年8月刊

子供の出来ない夫婦が医者に相談した。
「どんな方法でもいいから、奥さんが一番予想していない瞬間を狙ってセックスを仕掛けてごらんなさい。その方が受胎が起こる可能性が高いはず」

4ヶ月後。「感謝感激です。先生のアドバイス通りにいたしましたら、ちゃんと妊娠できました!」

診療室に夫ダケ残して医師は尋ねた:
医師「で、どうやって奥さんを犯したの?」

「それほど奇想天外な方法ではありませんよ。女房が冷蔵庫の扉を開けて何かを一生懸命探してたんです。それで、僕は気付かれぬように背後から忍び寄ってスカートをめくったんです。。」
「うーむ。なるほど。そりゃあ奥さんもいきなりでビックリされたことでしょうなあ」
「いやあ、後で聞いたら、女房は、それほどでもなかったみたいです。それよりも文字通り泡くってたのは、スーパーマーケットの店員やお客さんたちで、あやうく警察に通報されそうになりましたし。。。」

##
米原万里(ヨネハラマリィ)の遺著『他諺(たげん)の空似 --ことわざ人類学』(光文社)は雑誌「宝石」のエッセイをまとめたもの(2004-2006)。↑はこの本の最後に収録された「終わりよければ全てよし」の一部。エッセイの枕に当たる部分だ。これをマリィさんが書いたのは2006年初期、癌で七転八倒していたころではあるまいか?

夕べ仕事を終え、閉店間際の書店にかけつけ、みつけたマリィさんの遺著。今朝、最初と最後のエッセイだけ読んだ。週刊文春に月一度寄せていた書評を立ち読みしていた私は、この書評が遺著となっていることを期待していた。光文社の雑誌宝石への連載をまとめたもの、ということでややショックを受けたのであったが。しかし、高等哲学でなく、世事にたけ、批判精神旺盛、エリチン、ゴルバチェフを手玉に取ったマリィさんの魅力満載。

この本は、各国の諺を餌にしたマリィ時事評論、人間批判の書。熟読しよう。

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週刊文春の万里書評、まとめて出版されないのだろうか?寸鉄著者を刺す、快文、まとめて読みたいね。

●追記1:< 週刊文春6月8日の記事から>
5/25死亡、死因卵巣癌、享年56。
癌が告知されたのは2003年。
週刊文春に連載された闘病日記から。

x月x日 自らの意志で徹夜したことは数限りなくあるが、不眠症に苦しんだことは皆無な私が昨晩は一睡もできなかった。なのに今晩は眠れそうもない。次々にがんで死んでいった友人達の顔が浮かぶ(03/11/27号)

彼女は意志が示した選択肢から「何もせず様子見」を選ぶ。しかし、1年4ヶ月後に別の箇所への転移が判明し、今年1月ついに抗ガン剤治療に踏み切る。

<抗ガン剤治療を受けた直後の一週間は凄まじい嘔吐と吐き気に襲われ、死にたいと思うほどに辛かった> 06/2/23号

五月以降、妹、井上ユリさんに『いつ帰れるの?』と聞くようになった。(病院から)それで、5/21に退院。

告別式遺影写真が小さく、文春には載っている。少女のようなふっくらした笑顔である。

●追記2: 朝日新聞6月5日夕刊から
朝日夕刊、第四面、徳永晴美上智大学教授が、教え子である米原を追悼している。

徳永さんの語ったこと:
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20歳代後半の妖艶な彼女に圧倒された僕は、すぐに外の喫茶店へと連れ出した。そこで「仕事が見つからないの」と話す彼女に、「通訳をやろう」と誘った。
(略)
僕の研究室で訃報に接した米原ファンの学生たちは、涙を流しながら「ロシア語がんばります」
と誓ってくれた

徳永晴美さんは、彼女から師匠、とよばれていたらしいが、歳は万里より3歳若かった、と。
##

共産党幹部のムスメだったのだそうだ、米原は。初めて知った。だから、修士課程(東大)を卒業しても仕事がなかった。

関連記事:
『打ちのめされるようなすごい本』 書評
http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2007-01-04


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コメント 4

滴水

>週刊文春の万里書評、まとめて出版されないのだろうか?
でるようですよ。

打ちのめされるようなすごい本
ISBN:416368400X
米原万里 文藝春秋 2006/09出版
[46 判] 販売価:\1,785(税込) (本体価:\1,700)
この商品は現在予約受付中です。

5月に逝った著者、渾身のがん闘病記を収録する週刊文春連載「私の読書日記」と1996年からの書評を編んだ読書好き必読の一冊。

と、紀伊國屋書店で検索したら、出てきました。
by 滴水 (2006-09-04 21:41) 

古井戸

やっぱり!!

さんくす!さんくす!
早速予約。

『他諺の空似』も、諺に関係なく、ズバリ、「マリィの時事評論」にすればよかったのに。。。というくらいの小気味よさ。
by 古井戸 (2006-09-04 22:01) 

ERI

TBありがとうございます。
骨太でありながら、チャーミングな素敵な方でしたね。
私もファンでした。

「打ちのめされるようなすごい本」のレヴューも書いております。
http://oisiihonbako.at.webry.info/200612/article_8.html
ご参考まで・・。
by ERI (2006-12-30 20:15) 

古井戸

ERIさま
打ちのめされる。。は私もいずれ書評を書こうと思っています。
佐藤優『獄中記』書評http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2006-12-18 でも言及しましたが、 佐藤優とも交流があり、エリツィンにも通訳を越えてアドヴァイスをしていたようです。

ジャンルの広さ、まとめ方の上手さ、文章の闊達。書評を続けて欲しかったですね。 文春書評最期の三ヶ月分は癌の闘病記。これも胸を打たれます。
by 古井戸 (2006-12-30 21:14) 

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