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安岡章太郎の死 [Art]

生きている作家・批評家では唯一信頼を置いていた安岡章太郎が死んだ。この一年、発言もすくなく衰弱している様子だった。死も近いか、と覚悟はしていたからショックもない。小説はもとより安岡章太郎の歴史、美術とりわけ映画に対する批評眼は誰も追随できない。さらに、反差別やナショナリズムにたいする知見。師である井伏鱒二を思い、語る文章は愛情と尊敬にあふれる。夕べは評論集を中心にアマゾンのカートに入れていた安岡章太郎の批評集対談集10冊を注文した。中村真一郎、加藤周一、小田実、。。。どんどん死んでいく。

私の目標とする文章は安岡章太郎の文章である。目線を低くし、人間や歴史を見極めた、あるいは、追求するひと。そういうひとにしかああいう文章は書けない。安岡章太郎が二十世紀や昭和さらに幕末維新の歴史や、おのれのルーツを問うのは人間というものの謎を探るための行きがかり上、である。何を書いても、書いた対象ではなくおのれの浅さ深さが文章には露出してしまう。

『志賀直哉私論』、末尾の文章。「。。。しかし、この小説(暗夜行路)の主題は本当に父子の対立といふことだけだらうか。実際はそれもまた無意識の虚構で、真の主題はむしろ各所にわたつて行はれた描写の奥にある何かなのではないだらうか。たとへば、それは暗闇の中に背をうねらせる夜の海なら海そのものが、一切の理屈をぬきにして、そのままで私たちを引きずり込んでしまふやうな何かではないだらうか。」

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