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追悼・新藤兼人 [Art]

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http://www.youtube.com/watch?v=ZygI8NqbjNM
裸の島(ダイジェスト版)

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わが郷土の偉人、新藤兼人が亡くなった。享年百歳。

新藤兼人との出会いは私が中学生時代(東広島市、志和中)のことである。1961年か。中学校の講堂で定期的に行われていた映画鑑賞会に『裸の島』が選ばれ、上映された。音楽だけでせりふが全くないこの映画に私は驚いた(映画に詳しい国語の先生が開始前に蘊蓄を垂れてくれた)。映画の舞台である瀬戸の小島で暮らす家族に、ちょうど私と私の弟とほぼ同じ年齢差のある少年二人が兄弟として登場するのですっかり感情移入してしまった。四人家族が黙って食事をするシーンなど、我が家と同じ風景であった(もちろん、我が家では映画のように露天で食卓を囲むことはないが)。私が4歳の頃、母親に連れられて、瀬戸田の耕三寺に行った、かすかな記憶がそのとき甦ったりした。

その後、映画館で見た新藤の映画は『人間』と『裸の十九歳』だけであり他はTVやビデオ(録画)で観た。去年、TVで受賞作『午後の遺言状』を観たが画面は斬新、老人くさいところなど全くなく、安心した。

私が新藤を親しく感じるのは広島出身である、ということ(女優・杉村春子も広島出身だが、彼女は演劇を始めるとき広島訛りを抜くことが条件とされたが、新藤は堂々とした広島弁をしゃべる)のほか、監督と同じく、私の実家も農家であり働き者の母親を持っている、ということ。新藤はマザコンであり、子供時代かなり大きくなっても母に抱いてもらって寝ていたらしい。新藤の映画はすべて私小説ならぬ私・映画である、と新藤に親しい人は言う。『裸の島』は、新藤の労働する人々に対する共感に溢れ、なにより、働いて育ててくれた母親に対する感謝、恩返しである。

120530_1559~01.jpg 新藤兼人の母、42歳

この映画を見ると私の小さい頃のある夜の出来事を思い出す。三~四歳の頃か、夜中にふと目覚めて月夜で明るい背戸に誘われるようにはい出たときの光景だ。月光に照らされた田圃で私の父と母が働いていた。

『裸の島』の冒頭のシーン。小さな島の頂上まで続く段々畑に文字が被さる。曰く、

耕して

天に至る

いつ見ても、涙がこみ上げ、胸が熱くなる映画である。汗にまみれて働いているひとに共感し、よく観察した人にしかこの映画は撮れない(脚本ももちろん新藤)。いつ撮影するとも当てのない脚本を書き、あるとき、瀬戸を巡る旅で偶然この島に行き当たったのだ。これこそ裸の島だ、と。脚本を書いて二年後のことだ。すぐに、役者(殿山、乙羽のふたり)を含めてわずか15人のスタッフを集め、この孤島(すくね島)から一キロ離れた佐木島に宿を構えて撮影に入った。新藤映画には珍しく、ヘリコプターからの撮影が入っている(映画の冒頭とラストシーン。島々を眺望するシーンである)。なけなしの予算から二十万円をはたいて大阪からヘリを雇ったのだ。すばらしい効果を上げている。

人は、生まれ、苦しみ、汗にまみれて働き、ひとを愛して、そして死す。

120530_1559~03.jpg実家の蔵のそばに立つ監督。小さい頃、借金で母屋を失い、この蔵の中で一家が暮らした。これとおなじ造りの蔵は、いまでも私の実家にある。防火機能をもち、重要な家具はこのなかに納められる。窓が少なく、イタズラをすると、折檻の代わりにこの蔵に閉じこめられた。

新藤兼人『人としなりお』(シナリオ作家協会、1996)には映画関係者の証言が載せられている。なかから、大島渚監督の、短い言葉を引用して、とりあえずのお別れと感謝の言葉としたい:

「新藤様は、あらゆる困難を乗り越えて、誰もまねすることのできない、独自の映画づくりの高みに到達されました。」

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【中國新聞・速報】映画監督・新藤兼人さんが死去 100歳
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201205300123.html
 
 「原爆の子」「午後の遺言状」などの作品で知られる映画監督・脚本家で、文化勲章受章者の新藤兼人(しんどう・かねと)さんが29日午前9時24分、老衰のため東京都内の自宅で死去した。100歳。広島市佐伯区出身。

『裸の島』 (全編) http://www.youtube.com/watch?v=OjVtXe2pLaU

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ブログ記事・ある映画監督の生涯
http://furuido.blog.so-net.ne.jp/2008-02-28-1

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