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倫理的な戦争 [戦争・原爆]

毎日新聞4月4日

今週の本棚: 

『倫理的な戦争   トニー・ブレアの栄光と挫折』=細谷雄一・著
 ◇五百旗頭(いおきべ)真・評  (慶應義塾大学出版会・2940円)http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20100404ddm015070009000c.html

###全文引用 

◇信念ゆえに引き裂かれた指導者の軌跡
 久しぶりに感銘をもって読んだ国際関係の書である。感銘を覚えるのは、われわれが国際関係と日本外交について直面している主要問題について、本書がトニー・ブレア英国首相の思考と軌跡を通して深い良質の考察を行っているからである。

 たとえば、日本外交の主要問題はアメリカとどう交わるかである。米国は圧倒的重要性を持ちながら、必ずしもこちらに向き合って行動してくれず、一方的思い込みからベトナム戦争やイラク戦争に走ったりする。そんな時、同盟国は距離をとって批判的にたしなめるべきか、あえて懐に飛び込み同行しつつ影響力を保つべきか。後者を純度高く実践したのがブレア首相であり、ついで小泉純一郎首相であった。

 本書の著者はかつて『外交による平和』(有斐閣)を著して、英国の外交指導者A・イーデンが米国との連携を切望しつつ、不実の巨人に留(とど)まる米国にいらだち、ついに自らスエズ戦争の愚行に走るケースを検証した。ブレアはイーデンよりも深く米国大統領と親交を結び、その心をつかんだ。しかしイラク戦争を国際正義と国際協力の枠組において行うよう米国を説得し切れなかった。米国は結局のところ米国自身の想念と国益定義において行動した。

 日本外交にとって、日米関係と、台頭するアジアとをどう関連づけるか、それが二一世紀の中核的問題である。ブレア首相はよどみなくヨーロッパに深くかかわり、一員であるに留まらず欧州のリーダーとしての役割を果すに至った。それでいて同時に米国との例外的緊密さへと突き進み、米国と欧州の「架け橋」たることを英国の任務とした。日本は米国とアジアの間で同じことができるだろうか。「英国は大国ではない、しかし中軸国家(pivotalpower)でなければならない」。同じ言葉を日本の首相は発することができるだろうか。

 戦後日本が戦争と平和の問題から解放されることはなかった。第9条の下、侵略戦争は絶対不可であるが自衛戦争は許されるとの二分法が基本であった。しかし冷戦終結後の湾岸危機を経験して、平和維持や災害救援のためなら自衛隊を海外派遣しうると改めた。国際基準はもっと進んでいる。自衛の場合のみならず、国連安保理の決定に基く場合、軍事力行使は可である。加えて、ブレアの時代に「人道的介入」が国際基準に近づいた。一九九四年のルワンダの虐殺を放置したことに責任を感じる欧米指導層は、九九年のコソボでの民族浄化に対して起(た)ち上り、「保護する責任」を口にして軍事介入した。人道と正義のために戦わねばならない、それはブレアの深い信念であった。かつて観念的な平和主義の無為に漂流していた労働党を、ブレアは「倫理的な戦争」を敢行する政権党に変えた。リベラルな価値を奉ずる帝国主義といえるかもしれない。

 この観点ゆえにブレアはブッシュ大統領のイラク戦争に協力することができたが、それはブレアにとって身を引き裂くような受難を意味した。ブッシュ政権を動かすネオコンたちはリベラルな国際主義を侮蔑(ぶべつ)しており、国連決議を敵視し、イラクの戦後復興や中東和平に顧慮することなく先制攻撃へ突き進もうとした。欧州の友邦と断絶し、国内と政権内にも厳しい批判を招くブレアの英米同行劇となった。

 アジアで何か起る時、日本はブレアほど戦争と平和、そして米国とアジアの双方への深い関与を持ち得ないであろう。けれども本書が提示したブレアの強い信念ゆえのジレンマは、日本の国家戦略にとって図上演習の如(ごと)き意味を帯びている。

####全文引用おわり


評者・五百旗頭真は、防衛大学校長である(今週の本棚・書評委員)。

五百旗頭真>けれども本書が提示したブレアの強い信念ゆえのジレンマは、日本の国家戦略にとって図上演習の如(ごと)き意味を帯びている。

なにが図上演習か?と、ブレアなら言うだろう。
俺は「独立調査委員会に喚問されて証言もした。議会は、「米国と特別な関係を英国政府がもつこと」を拒否した。EUの大統領にもなれない。

コイズミを無罪放免したニッポンと英国を同列に扱うな。


ブレアは下記の記事で述べている:
チルコット委員長が「兵士遺族も傍聴している。参戦に後悔はありませんか?」と問うと、ブレア氏は「サダム・フセイン(イラク大統領)を除去したことを後悔していない。彼は怪物で世界への脅威だった」と言い切った。

こう断言する(ブッシュも死ぬまで同じことを言い続けるだろう。コイズミも)ブレアに対して英国議会や英国民はどういう言葉を投げつけるのか?ブレアなら君等はあのとき、俺を批判したか?コトが終わって俺を批判できるのか?と言うかもしれない(敗戦後、東條英機も国民や議会に対しては、こう言えたはずだ)。

しかし、たとえ事後であろうと、恥知らずといわれようと、調査委員会を開催して、首相や当時の閣僚を喚問したことは、国民や議会に何もしない(税金とヒトを消費した国策に対して国民に何の報告もしない)日本とは大違いである。


ブレアはイーデンよりも深く米国大統領と親交を結び、その心をつかんだ。しかしイラク戦争を国際正義と国際協力の枠組において行うよう米国を説得し切れなかった。米国は結局のところ米国自身の想念と国益定義において行動した。

戦争を発議するのは内閣や大統領であっても、議会の支持がなければ実施はできない。首相や喚問すると言うことは、当時の議員に対しても別の行動が取れなかったか、と反省を迫っているはずである。でないなら、第2第3のイラク戦争をどうやって防ぐのか?(もちろん、ニッポンは何度でも同じ過ちをくり返す)。


ミソと糞の区別がつかない、目糞と鼻くその区別もつかない人間でなければ、防衛大学校長は務まらない。

イラク戦争を実施したのは米国を中心とする国連軍である。国連は世界に対して、戦争が如何にして行われたか、倫理的であったのか、説明する必要があるのではないか?米英、それに日本の議会や政府も、報告書を作成し、国民に提出すべきではないか?

 

イラク戦争に「英国式けじめ」 独立調査委、首相を喚問
http://www.asahi.com/international/update/0218/TKY201002170537.htm
l2010年2月18日2時27分

英国で、イラク戦争を検証する独立調査委員会の取り組みが続いている。参戦を決断したブレア前首相を1月末に喚問し、3月初めには、ブレア政権ナンバー2だったブラウン首相(当時財務相)も呼ぶ。総選挙を控えて政治的な思惑もからむが、世論を二分する問題に一つの区切りを与える、英国伝統の知恵でもある。

 ブレア氏が喚問されたのは1月29日。6時間にわたって自分の決断の正しさを主張した。チルコット委員長が「兵士遺族も傍聴している。参戦に後悔はありませんか?」と問うと、ブレア氏は「サダム・フセイン(イラク大統領)を除去したことを後悔していない。彼は怪物で世界への脅威だった」と言い切った。

 その翌週には開戦当時の女性閣僚ショート氏が証言。「大事な情報は私たちに伝えられず、ペテンにかけられた」とブレア氏の側近政治を真っ向から批判した。

 米英が開戦の「大義」とした大量破壊兵器はイラクになく、調査委の焦点は、ブレア氏ら政権中枢が内閣や議会を「ミスリード(誤導)したか」に絞られている。

 英国は昨夏まで軍部隊をイラクに駐留させ、179人が犠牲になった。イラク戦争はまだ過去のものではなく、テレビ中継される調査委の喚問を国民は注視する。調査委はネットのホームページでも喚問記録を公開している。

 ブレア氏喚問後の英紙インディペンデントの世論調査によると「ブレア氏は戦犯として裁判にかけられるべきだ」に賛成が37%、反対57%。6割が「ブラウン首相にも共同責任がある」と答えた。

 英国では5月にも総選挙がある見通しだ。ブラウン首相の喚問は、影響を避けるため総選挙後の予定だった。ところが1月、首相自身が「総選挙前に」と申し出た。野党から「喚問がこわいのか」とあげつらわれ、逃げ腰のレッテルを張られるのを嫌ったためだ。この問題に早く区切りをつけ、風向きを変えたいとの思惑もありそうだ。

英国の独立調査委員会方式の歴史は、20世紀初めにさかのぼる。英議会は強い調査権限を持つが、二大政党制のもとで手順などをめぐって対立が起き、暗礁に乗り上げてしまうことが多かった。

 オックスフォード・ブルックス大のダイアナ・ウッドハウス教授(法学)は「政治的に中立で一般の人びとから尊敬される議会外の『賢人』に調査を委ねる方式が生まれた」という。

 これまでに設置されたのは約80件。1982年のフォークランド紛争後にはサッチャー政権の責任が問われ、「政府に落ち度なし」との結論が出された。近年では、牛海綿状脳症(BSE)や北アイルランドの流血事件をめぐる調査もあった。

 イラク戦争の調査委員は戦史研究家のオックスフォード大教授ら男性4人、女性1人。委員長のチルコット氏は元官僚。

 調査は長期におよぶため、政府にとってはその間、論争を棚上げして時間稼ぎができるという面もある。調査がうわべだけのガス抜きに利用されている、との指摘もある。

 しかしタイムズ紙のコラムニスト、ベン・マッキンタイア氏は「どんな結論であれ、そこに至る過程そのものに大切な意味がある」と言う。ウッドハウス教授も「調査委の結論に満足しない人もいるだろうが、国民的議論に終止符が打たれ、歴史のひとこまになっていく。イラク戦争調査が公開の場で歴史に刻まれていく意義は大きい」と話す。

     ◇

 〈英国のイラク戦争調査〉 イラク戦争や占領政策に疑問をもつ世論や野党の突き上げで、ブラウン首相が昨年7月、歴史学者や元外交官ら5人から成る独立調査委員会を設けた。政府の機密書類を精査し、11月から政治家、外交官、軍幹部、情報機関トップら約80人を喚問した。結論が出るのは早くても今年末。

 

 


●「2002年から戦争を画策」:イラクに対するブレアとブッシュの陰謀 / デーブ・リンドルフ
"Working the War Up Since Early 2002": The Blair-Bush Conspiracy on Iraq / DAVE LINDORFF 2009年11月25日
http://trans-aid.jp/viewer/?id=7367&lang=ja
アメリカ人のほとんどはこれについてまったく知らされないまま満足げだが、大西洋の向こう側、英国では、ゴードン・ブラウン首相が英国の反戦活動家たちからの圧力で、嫌々ながらに設置した調査委員会が、2003年に英国を米国とともにイラク侵略に導いた英国政府指導陣の行動と発言をめぐる聴聞を開始した。
昨日開始された聴聞会で証言が行われる前から、委員会が入手した文書からのリークに基づき、元首相トニー・ブレアの政府がイラク戦争計画に対する英国の関与について議会と国民に嘘をついていたとのニュースが現れていた。
週末、英テレグラフ紙は英軍幹部たちの文書を公開した。その一つは英軍特殊部隊長グレアム・ラム少将のメモで、その中で彼は「2002年の早いうちから戦争を扇動するよう」指示されていたと述べている。
ここから、2002年7月に下院の委員会の場でブレアが「イラク侵略を事前に準備していたわけでは断じてない」と述べたとき、彼は嘘をついていたことが明らかである。
委員会が証言を聴き始めると事態は加熱するだろう。委員会には、ブレア自身を含む最上層の政府高官たちに証言させる権限があり、またその意志もある

 

 

英国:米と「特別な関係」終幕 国内、オバマ外交に不満--下院委が報告書
http://mainichi.jp/select/world/news/20100329ddm007030040000c.html
 【ロンドン笠原敏彦】英下院外交委員会は28日、英米関係に関する報告書を公表し、両国間の「特別な関係」はもはや実態を示していないとした上で、米国に対し「いとわずにノーと言う」べきだと勧告した。オバマ米政権が多極化する世界で相対的に英国・欧州への関心を薄める中、両国関係にはきしみが目立っている。報告書は英国の伝統的な外交姿勢の変更を求めるもので、流動化する国際秩序を反映している。

 「特別な関係」という表現は、チャーチル元首相が1946年の「鉄のカーテン」演説で言及。情報・軍事面で密接な協力関係を持つ両国の関係は、80年代のサッチャー首相とレーガン米大統領による対ソ連強硬路線などに象徴される。英国にとってこの関係は国際社会で「実力以上の影響力」を発揮する基盤となってきた。

 英メディアによると、報告書(244ページ)は「特別な関係」という表現を今使うことは「英米関係が英国にもたらす利益について非現実的な期待を生む」と指摘し、「その使用は避けるべきだ」と結論付けている。

 その弊害については、03年にブレア首相がブッシュ米大統領と肩を並べてイラク開戦に突き進んだ教訓に触れ、「英国は米国の従順なプードル犬との認識が海外にも広がったことは、英国の評価と国益を大きく傷つけた」と指摘した。

 報告書は英米関係が「重要で貴重」と認めながらも、「英国が米国を常に敬う必要はなく、利益が異なる場合はノーと言うことをいとうべきではない」と勧告した。背景には、外交の多角化が必要との認識がある。

 ゲイプス委員長は「長期的に見て、英国が過去のように米国に影響力を行使することはできなくなるだろう」と述べた。

 英国内には、米国の戦略的な関心が大西洋から太平洋にシフトし、オバマ政権が「特別な関係」に十分な関心を示していないとの不満がある。英軍はイラクやアフガニスタンで多くの犠牲を払っているが、米軍は英軍に大きな期待はしていないとの指摘も強い。

 最近では、石油資源開発をめぐるアルゼンチンとの対立で、米国が「中立的立場」を取っていると英メディアが米国を批判するなど、両国間の溝は深まっている。

 英国では5月6日投票とみられる総選挙を前に、国際社会の中で果たすべき役割についての議論が生まれている。経済危機のあおりで軍事費の大幅削減を迫られる中、「国力低下」と「米英間の戦略的志向の乖離(かいり)」を認識した論議で、報告書は一石を投じそうだ。


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