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座談会「秋葉原事件・何が問われているか」 その1 [Ethics]

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雑誌『世界』8月号が緊急座談会「秋葉原事件・何が問われているか」を掲載している。
出席者は次のとおり。
鎌田慧  ジャーナリスト
池田一慶  ガテン系連帯共同代表
小林美希  労働経済ジャーナリスト
本田由紀  教育社会学専攻(東大准教授)

自身が派遣労働を経験した鎌田と池田の発言を中心にここに再録する。派遣業の実態を体験を交えて語っている。

<白日夢のような悪夢>
小林
。。。ここまで悲惨な事件が起きる前に、さまざまな形で同じような事件はすでに起きていたのではないかと思います。


池田
。。。僕自身は2005年から日野自動車に派遣社員として2年3ヶ月ほど働きました。加藤容疑者が私と同じ派遣会社で、やはり自動車工場で働いていたことを知り、ますます、これは他人事ではない、と思っています。
いま危惧しているのは、彼が「アキバ系のオタク」だったとか、事件の原因を彼個人の性格に還元したり、あるいは派遣労働という構造や派遣先企業の問題を無視して派遣会社だけを問題視したりする議論です。こうした議論が派遣社員を職場でさらに追いつめないかと心配です。
一方で派遣先の大企業は平然としている。

鎌田
。。。彼と同じく青森県出身で、期間工としての体験を「自動車絶望工場」に書いた私には、彼が身近に感じられたのです。
。。。6月14日の朝日新聞の天声人語が、「派遣工の弱い立場も背景の一つだったが、凶行を格差社会のみで語るのはどうか。あまり一般化すると、私的で特異な要素がかすんでしまう」と書いています。これは、今回の事件が個人の資質や性格の問題ではなく、あくまでも社会的な問題として考えなくてはならないと書いた私などへの反論だと考えられます。私が今回の事件の背景として、ますます非人間的になっている派遣労働の実態があると指摘しているのは、こうした議論への反論だったのですが再び巻き返しがなされているのです。



<派遣労働の実態>
池田
1999年に労働者派遣法が改正され、それまでは専門的業務に限って例外として認められていた派遣労働が原則的に自由化されました。そして03年の派遣法改正でついに製造業でも派遣労働が解禁されるにいたりました。工場の様子と派遣労働者の役割を、自分の経験から説明しましょう。私の働いていた日野自動車の工場にはおよそ6500人が働いていましたが、そのうちの約半数、3000人が正社員ではありません。そのうちの2000人は自動車メーカーが直接雇い、有期契約社員として働く「期間工」と言われる人たちで、残りの約1000人が派遣労働者です。。。

。。。派遣社員に求められているのは、必要なときに決まった労働をこなす工具のような役割というわけです。
私たちの雇用期間は1ヶ月から三ヶ月の細切れ雇用です。自動車会社はできる限り在庫を持たないよう細かく生産計画を立てます。僕の働いていた工場では1ヶ月に一回、生産工程会議を行い、派遣労働者や期間工の数を決めるのですが、それを決めるのは工務部といって部品を扱う部署です。人事部ではありません。
正社員であれば人事部で雇われ、教育をされて、働くことに喜びを見出していくのかもしれませんが、不安定な細切れ雇用と単純労働の繰り返しのなかで、この状況に耐えることだけです。労働者がいくら頑張っても、生産が下がれば雇用は切られます。賃金も低く、私たちのような派遣労働者の年収は、月に60時間の深夜作業をこなしても250万円弱にしかなりません。期間工は400万円弱、正社員になると500万円くらいになります。

小林
製造現場の派遣労働者や「請負」労働者、さらに他業種の非正規労働者も、不安定な短期雇用と劣悪な労働条件という点で共通しています。たとえば、一見すると企画などの分野の派遣社員は、単純作業ではなく働きがいがあるように見えますが、やはり「この先どうなるかわからない」という不安感、不安定な状況から抜け出せないことへの苛立ちは、非正規で働いている人たちが共有して感じていることではないかと思います。その根底には、企業が非正規で働く人たちをどう見ているのかという問題があります。企業側が非正規労働者を人件費削減のための正社員の代替であったり、生産の調整弁として見なすのであれば、働く側は「いつクビになるかわからない」という不安を抱えざるをえません。


<人間関係が成立しない>
(派遣労働者の内部、あるいは派遣と期間工との間や、派遣と正社員のような、様々な雇用形態で働いている労働者の間での関係)
。。明確に序列的な意識がありましたね。。。
正社員との信頼関係は、このような状況では望むべくもありません。派遣社員は正社員から見れば、一番単純な作業しかできない半人前です。しかも自分たちが面倒をみてやっている。本当の意味で同じ職場の仲間とは認めません。当然、こうした労働条件に嫌気が差してやめる派遣労働者も多いですから、正社員の側の派遣労働者を見る目はますまる悪くなる。。。
派遣労働者や期間工のあいだでも、いつ相手がいなくなるかわかりませんし、お互いに職場に人間関係を求めていない場合が多くなりますから、話はあまり交わしません。寮で生活していて、同じ部屋になっても挨拶もしないという人ともたくさん会いました。


鎌田
事件を起こした彼はトヨタの期間工の募集に落ちていたと自分で書いていますが、以前なら考えられないことです。これまでは期間工が最底辺の労働者だったのですから。今はさらにその下に派遣労働者の階層ができたので、期間工の募集にすら選別が働くようになった。期間工すら落ちて、その子会社の、それも期間工の下の派遣になり、解雇の予感に震えている、とんでもない絶望的状況です。期間工は直接雇用なので、低賃金ながらも企業側から「ご苦労さん」というねぎらいがあります。明日にはクビになるかもしれないという状況でもないから、多少は安定しています。採用も本社の人事課が行います。それに対して派遣労働者は、労働者を掻き集めた派遣会社から供給されるだけなので、企業は彼らをまったく信用していない。賃金も期間工と格差があるし、蔑視の眼差しも強い。それは池田さんも経験しているはずです。

池田
はい。正社員と期間工と派遣で花見をしたのですが、三十歳くらいの正社員のひとから「お前いくつだ」と聞かれて「26歳です」と答えたら「お前は正社員か?」と言うので「いいえ、派遣です」と言ったら、「派遣か、人生終わっているな」と言われました。私は笑っていたのですが、後に、組合の仲間になる同じ寮の部屋の人がその言葉に怒って喧嘩になりました。それが労働組合を作るきっかけになったのです。


小林
正社員の立場からすると「入口がちがう」という言い方をします。自分たちのような正社員は厳しい試験を突破してきたので、派遣労働者が何年働いていようと、正社員に転換するのは逆にアンフェアだと見る。マスコミの職場でも同じようなことが言われることがあります。大手新聞社で労働問題を扱っている記者自身ですら自分が正社員であると、そういう思考を持っている場合が少なくなく、隣りあっている契約社員や派遣労働者が置かされている状況や気持ちに気づかない。。。。

鎌田
。。。序列的な構造も、以前は本工労働者と下請け労働者という区別だけでしたが、いまや多重構造化して、同じ工場内でも正社員から期間工・派遣労働者、外国人「研修生」や日系ブラジル人、請負企業の本工、臨時労働者などがいる。大企業だけでなく、コスト削減を迫られている中小企業でも状況は変わりません。
これまでこういう状況に置かれた若い人には自殺が多かったのですが、最近になって怒りが他者に向けられるようになってきたのではないかとおもいます。


 (つづく)

つぎは、トヨタ・関東自動車の問題、結論~労働者派遣法の改正、について。
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