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問題は米国の国益追求である  『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』 [Book_review]

 

すでに記事にした『イスラエルロビーとアメリカの外交政策』ミアシャイマー & ウォルト著

http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2007-12-04

の翻訳本を図書館にリクエストしていたが、購入してもらえたので借り出した。原著500頁、訳書は上下で計650頁(この程度の厚さなら一巻にまとめて欲しい)。大著、というほどでもない、一日あれば読める長さだが、時間がないので、終章『何がなされるべきか』だけを読んだ(貸出期限は2週間なので一旦返却し、必要があればまた借り出そう)。

本書で言いたいことはこの終章で尽きているのではないか、ともおもえる。目次をかかげておく:

第一部 アメリカ、イスラエル、そしてロビー

第一章 アメリカという大恩人

第二章 イスラエルは戦略上の資産か負債か

第三章 道義的根拠も消えて行く

第四章 <イスラエルロビー>とはなにか

第五章 政策形成を誘導する

第六章 社会的風潮を支配する

                    (以上上巻)

第七章 <イスラエルロビー>対パレスチナ人

第八章 イラクと中東 体制転換の夢

第九章 シリアに狙いを定める

第十章 イランに照準を合わせる

第十一章 <イスラエルロビー>と第二次レバノン戦争

終章  何がなされるべきか

 

著者によれば、イスラエルロビーの存在自体はだれも拒むことはできない。前記事でも書いたように、米語区議会とロビー活動は切っても切れない関係にあり、ロビー活動の受け皿として議会がある、ってなもんだろうから(米国だけじゃないが)。著者も、イスラエルロビーを否定しているわけではない。それに易々と載っている米国議会の議員が問題なのだ。

下巻p259で、著者は問うている:

『わたしたちは何をなすべきだろうか。現在の米国の諸政策は、様々な厄災を生み出す悪循環に陥っている。それを好転させるには、新しい戦略が必要だ。これまでとはまったく異なるアプローチを考え出して実行するためには、<イスラエルロビー>の力に焦点をあて、理解する方法を見つけ出す必要がある。これまでなされてこなかった新しい戦略の概要を示すと次のようになる。

1 中東における米国の利益はなにかを明確にする

2 中東における米国の国益を守る戦略を概観する

3 米国はイスラエルとの間で新しい関係を構築する

4 イスラエル・パレスチナ紛争を”二国家共存”という枠組みで解決を図る

5 <イスラエルロビー>を建設的な勢力に転換させる』

 

この後で著者は個別事項の対処案を掲げている。

上記リストを見れば分かるようにこの本は徹底的に米国の国益を追求した本である。1~4についていえば、著者は、国益を守るために海外に直接介入するのは愚策であり、米国の<伝統的な>、オフショアバランシング(地域外から均衡を図る)という戦略に徹すべき、であると述べている(直接にせよ間接にせよ、米政府が国益のため全世界各地域をウォッチし軍事・政治プレゼンス継続するのを支持することは、米国学者ダケの身に付いた錆、もとい、身だしなみであろう)。

<イスラエルロビー>に対処するには4つの方法がある:(p282)

『理論的にいえば、<イスラエルロビー>の持つマイナスの影響力を弱めるためには、四つの方法がある。

1 <イスラエルロビー>の力の源泉を小さくすることや、<イスラエル・ロビー>が影響力を行使する場合に用いる方法や手段の数を少なくする

2 他の団体が<イスラエルロビー>の政治家や政策決定過程に対して持つ影響力と対抗しようと試みることである。そうすることで、米国の政策はもっと中立的なものとなる。

3 これまで支持されてきた神話を訂正し<イスラエルロビー>の様々な主張に対抗することである。

4 最後に<イスラエルロビー>自体が現在持っている影響力を維持しつつ、これまでとはまったく異なった政策を主張するという肯定的な方向に発展していくことである』

 

CIAをはじめとして米国の強力な諜報活動を念頭に置けば、なぜ、イスラエルロビーが、書名にしなければならないほど問題となるのかわたしにはまったく理解できない。議員が金にそれほど弱い、ということか?(ニッポンと同じだが)。

訳者代表(実際に本書を訳したのは副島塾の優秀な弟子二人のようだ)である副島隆彦(反米憂国派国際政治学者)によれば、

『。。人々に先んじて本書を読むことは、これからの近未来を確実に予測しようとする日本人にとって緊要のことである。。。(略)

この強大な米国という、私たちの宗主国のように振る舞う超大国が、内部にこれほどの弱点と脆さを抱えていようとは。読めば読むほど驚きと発見の連続である。かつ最先端の米国事情を教えてくれる良書である。(略)

生の政治の泥臭さとものすごさに圧倒され、まさに圧巻である。「どこの国も同じなんだな、世界一の強大な国であるはずの米国の政治家たちも、一人一人はひどい目にあって大変だなあ」と本当に私は心底、同情した』

。。ということになる。

著者は第11章で、2006年の夏、イスラエルが起こした第二次レバノン戦争(イスラエル軍によるレバノンに対する無差別攻撃。市民が多数死んだ)を、<戦時国際法違反>として非難し、これをやめさせられなかった米国の政府の非倫理性・非戦略性を攻撃している。往事の政権なら(カーターや、パパブッシュなど)これにストップをかけたろう、と。しかし、レバノン攻撃はイラク戦争の縮小版であり、イラクに根拠無く侵略した米国が、倫理的、国際法的に、イスラエルの対レバノン無差別爆撃を非難などすれば嘲笑の対象になるだけである。

 

副島は、あとがきで言っている:

『来年(08年)11月に大統領選挙がある。あくまで私的で、予想の域を出ないが、私はバラク・オバマ上院議員が当選すると早くから書いてきた。今の時点でもそう考えている。オバマ候補の外交顧問に、ブレジンスキーが就任すると報じられた(略)そのブレジンスキーが本書を評して「この本を私は評価する」と発言している。ということはこの本の内容が、09年からの米国の外交政策の要になるということである』

。。で、オバマが政権を取って、何か変わるの?(変わろうとすれば、軍産複合体制が許さないだろう。ケネディ大統領、を想い出せばよい)

私はイスラエルロビーの存在が愚劣なイラク戦争を起こしたのではなく、戦争マシンはあくまで米国の軍産複合体制である、と考える。イスラエルの存在などは米国の軍産複合体制に利用されているに過ぎない(あるいは、もちつもたれつ関係にある、ならず者兄弟)。軍縮、とか、国連によるあるいは国連軍による国際秩序の維持。。など、著者等の関心の枠外のことのようである。

ニッポン政府あるいはニッポンのシンクタンクはこの著者等を破格待遇で、日本に招聘し、ニッポンの国益追求のために働いてもらうよう懇請できないものだろうか。この著者達なら、敗戦後半世紀も経つのに、ニッポンに広大な軍事基地を所有し、莫大な思いやり上納金をふんだくり、政策と予算に口出しする米政府を、<平時国際法違反>として糾弾してくれるかもよ、<ニッポン・ロビー>として。

 

著者等は、この本に対する批判に対し逐一反論する論文を書いた。下記サイトからダウンロードできる。

http://www.israellobbybook.com/setrecord.html

 

著者HP:

http://www.israellobbybook.com/book.html

 

『イスラエルロビーとアメリカの外交政策』ミアシャイマー & ウォルト著

http://blog.so-net.ne.jp/furuido/2007-12-04


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コメント 2

runaway

>> オバマが政権を取って、何か変わるの?(変わろうとすれば、軍産複合体制が許さないだろう。ケネディ大統領、を想い出せばよい)

Your guess is as good as mine. He might have a plan to make some changes(whether, slightly or drastically) in US foreign policies, but I don't think it leads to an about-face in ‘War on Iraq’ at least for 2009 and 2010. I don’t know how much the White House, the Pentagon, & the CIA are deeply connected to make conspiracies in manipulating ‘fear’ of terror and threat for their utilization of US troops. But, I’m sure there are a number of political watchdogs who are wrapped under the wings of such hawk-eyes as Dick Cheney, Donald Rumsfeld, and Lewis Libby.

Barack Obama himself is from Chicago, a city which has a nefarious history of political corruptions,
including mafias and lobbyists sponsoring funds to back up their horses. He has raised a tons of money for his political campaign so far. He was even accused of ‘stealing’ a fundraiser from Hilary Clinton(!). I wonder where most of his campaign funds come from.
by runaway (2008-01-14 14:32) 

古井戸

In Kennedy era, US had the definite enemy, USSR. Now, they do not have it. Instead, they (and the world) have still-undisclosed mismanaged economy. Please stop exporting the US originated crisis.
by 古井戸 (2008-01-14 19:33) 

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